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寄席&落語会
1月29日(水)「ミックス寄席(77)」
[18:45 お江戸日本橋亭]
桂前助 道具屋
春風亭昇太 宴会の花道
昔々亭桃太郎 もてない男のラブレター(仮題)
〜仲入り〜
昔々亭慎太郎 無学者
春風亭昇太 人生が二度あれば
昔々亭桃太郎 勘定板
昨年に続き二度目の兄弟会は、ミックス寄席お得意の“異色顔付け”。とにかく二人とも自分の世界をもった噺家なのに(だけに、というべきか)、相手をなんとなく意識しているのですね。桃太郎師は型をもった噺家で、クールというか計算ずく、崩れないところが味だと思うのだが、相手を意識したためにその型を崩して何とかしようとすると「自分がたり(主にグチ)」にどどっと進んでいく。脱線から元に戻らなくなる。それが見ていて面白い。芸とセンスのある人だからこそなのは、もちろんだけど。昇太師は師でどこか勝手が違うようで、ふだんはやらない世辞というか兄弟子についてのあれこれを語る。二人とも根多にはいると壷にはまってくるのだが、そこまでの奇妙な雰囲気が客席に伝わり、妙なうねりを作っていた。僕は初めてなのだが、自分のフィールドが確立している(そして相手の芸を認め合っている)二人が合わさることで、絶妙の化学反応というか摩擦熱が起きる好例だと思った。

1月28日(火)「春風亭昇輔アワー」
[18:30 お江戸日本橋亭]
快楽亭ブラ坊 子ほめ
春風亭昇輔 鉄道天誅隊
柳家喬太郎 墨田警察一日署長
〜仲入り〜
春風亭昇輔 宿屋の富
自ら意識的にカルトを名乗る芸協二ツ目・新作派の極北。鬼才ブラック師に傾倒して(いるのか?)、映画やアニメ、風俗関係にのめり込むマニアの目は「本物」で、凡百の芸協新作派をセンスとパッションで凌駕していることは間違いない。この日も、気弱なキューピー(c:喬太郎)の外見に秘めたネジクレ根性が炸裂。電車の中の迷惑野郎に怒り狂い、マニアックに仕置きする体験的新作『鉄道天誅隊』を不気味な笑みを浮かべながら語り、狙い通りに“引かせながら笑わせ”ている。自分の位置を自覚したキ◎ガイほど強いものはない。気味悪がられれば悪がられるほど燃え上がる、昇輔の鬼才に期待したい。

1月26日(日)「日曜朝のおさらい会(30)」
[11:30 池袋演芸場]
柳家さん太 牛ほめ
柳家権太楼 幾代餅
柳家権太楼 三枚起請
席は開場の10分後には埋まって大入り満員。この会のおなじみ、前座で上がった弟子への“公開小言”や、口演の前後に語る芸談を楽しみにくる客も多い、と聞く。『幾代餅』は、「ペーペーの職人にめぐってきた一世一代の散財のチャンス」にポイントを絞って、絶世の花魁に一目逢わんがために身分を偽ったことを、それはもう不様なくらいに泣いてわびる清蔵と、彼にとって雲の上どころか宇宙の果ての存在である幾代太夫との距離を強調する。そうすることではじめて、現代人の我々がワキから見るのよりも、もっともっとはるかかなた、笑っちゃうくらい遠いところにあることが伝わるのだ。「人がやるような吉原の風景描写は極力省いてやっている」と本人ももらしたように、吉原風情どうのこうのではなく、主人公「当人」の目線にどこまで立てるか、それをとことん考えた演出法ではなかったか。「泣き」の落語はあまり好きではないのだが、演者自身の心根をまるごと投射する「権太楼・人情話」の狙いはよくわかる。
『三枚起請』は群像劇というか、三人の役割、キャラクターが楽しい根多。はじめに起請を持ち込んで浮かれる邪気のない男にスポットを当てて、ほどよいドタバタ劇にまとめていた。


1月24日(金)「月例談生独演会」
[19:00 お江戸上野広小路亭]
立川談生 ズーズー弁 金名竹
立川談生 粗忽の釘
〜仲入り〜
快楽亭ブラッC 宇宙の法則(仮題)
立川談生 殿様のマラ(仮題)
立川談生 反魂香
合計4席と盛りだくさんだが、どれにも談生らしい味付けがあって飽きない。『粗忽の釘』は、粗忽モノを「そそっかしくて、切れやすい→放っとくと何をするか分からない」と誇大解釈し、釘を打つために金づちを持たせたあたりから暴走させる。忍者屋敷の吊り天井のように壁一面に打たれた「八寸の瓦釘」なんて、完全に反則ワザなんだけど、口頭の芸ならではの尋常じゃない長屋風景を描き出した発想のスケールに圧倒される。
『殿様の〜』(勝手に命名しました)は、根多自体が荒唐無稽にして壮大なスケールのバレ噺だ。天罰で切り取られた村の男全員分の××が山と詰まれた情景など、想像するに気持ち悪くも壮観。自ら語るとおり、あまりトクをしない根多だけど、落語がもっていた猥雑なパワーをどのように生かすか、ヘンなおかしさを現代に通じさせるか、という意識をもつ談生ならでは取り組むべき「課題」だろう。ただ「どこかで聴いた落語をまた聴きたい」というニーズではなく、「舌先三寸で、なにか目に物見せて欲しい」というコアな客のためにこそ、談生という落語家は存在しているのだから(とはファンの勝手な要求ですが)。


1月22日(水)「歌彦の挑戦(8)」
[18:30 池袋演芸場]
いち五 まんじゅうこわい
かぬう 八九升(はっくしょう)
柳家小権太 壷算
三遊亭歌彦 鹿政談
〜仲入り〜
鈴々舎わか馬 弥次郎
三遊亭歌彦 電報違い
トリ根多は初代・三遊亭円歌の代表作のひとつ。さすが、円歌一門気鋭の二ツ目。(手元にある当代円歌の口演と比べて)現代に通じにくい部分をすっかり刈り込んで、それでも破綻なく構成していた。ギャグがだいぶトンでいるのは残念けど、仕方がない。
すでに汽車で東海道を往来できる明治時代が舞台。電報っていう当時の新風俗がテーマになっているが、古典の世界そのままの大店の主と出入りの植木職人の関係といい、しっかりしたストーリーといい、良質の古典落語と同様の味わい。それを根多の芯に置きながら、筋立てと会話のやりとりだけから、文明開化時分の雰囲気をにじみ出させるのはたいへん。三代目のを聞くと、この職人を自身のキャラに引きつけて円歌落語のリズムを生んでいる。(まさかそのままなぞるわけにもいかず)職人のキャラが今ひとつ立てられなかったことが、どこか“物足りなさ”を感じさせた原因かもしれない。
むかしの新作っていうとむやみに嫌う人が多いけど、すでにいろんな人が練ってる明治・大正期の作は、いまの噺家が「古典」として取り組んでもおかしくない。「落語の今後」とか「今自分がやる落語」を真剣に考える人は、(新作を生み出すことももちろん大事だが)もっと古典落語(古典世界)の幹を太くしないと、昭和の名人の遺産を食いつぶしちゃう日は近い? という僕の危惧は杞憂だろうか。代々円歌の作品なんか、そういう「古典候補」の最右翼だと思うのだけど。でも下手な人が演っちゃダメ。歌彦みたいに力のある落語家がきちんと演じて、ものめずらしさでもいいから普通の客に「なかなか聞ける


1月19日(日)「こぶ平(8)」
[18:00 ねぎし三平堂]
林家こぶ平 「王子の狐」
林家こぶ平 「鹿政談」
“落語に目覚めた”こぶ平師が、基本に返ってコツコツ重ねる勉強会。少し間が空いたものの、昨年のいっ平真打昇進を期にマスコミ仕事の忙しさも最高潮のはずだが、“今年は新根多10席に取り組む”となおも意欲的。一席目『王子の狐』は根多おろしというが、きっちり言葉をまとめており安定感は高い。ふと芽生えた悪心から、いい女に化けた狐を逆にだます男のいたずらっぽさに、演者の人懐っこいキャラクターが重なって見えてくると、荒唐無稽な話にもっと説得力が出るのでは(今日はちょっとあっさり気味)。『鹿政談』は、講釈根多ということで変に力んだりすることなく、押さえた語り口でオーソドックスに(悪く言うと地味に)仕上げている。付いている?とも思える二席だが、こうして聞くと落語の動と静の両面が出ていて味わい深い。

1月18日(土)「末広亭・正月二之席(夜の部)」
[19:00 末広亭]
柳家さん角 高砂や
柳家三之助 金明竹
柳貴家小雪 太神楽曲芸(五階茶碗、傘)
川柳川柳 ガーコン
柳家福治  狸の札
柳家小袁治 平林
太田家元九郎 じょんから節
三遊亭金馬 動物園
春風亭正朝 漫談(小噺)
柳家さん喬 替り目
ぺぺ桜井 ギター漫談
柳家権太楼 漫談「関取の客、噺家の客」(仮題)
橘家円蔵 漫談「ゴルフ交遊録」(仮題)
〜仲入り〜
太神楽社中 寿獅子(獅子舞)
柳家喜多八 ぞめき
春風亭一朝 祇園祭
三升家小勝 漫談「網走刑務所案内」(仮題)
林家正楽 紙切「相合傘・ろくろっ首・ミッキーマウス」
柳家小三治 にらみ返し
今年の寄席初見参は末広・二之席。今日は正月の客と大看板・小三治目当ての客、それに土曜の入りが重なって開演時には桟敷まで満員。大入りの日の末広名物「二階座敷」も5時にオープン。前半、根多が続いて押したために、正朝師、権太楼師、小勝師、そして仲入りの円蔵師までが漫談で降りたのはちと残念だが、いずれも主任に時間を残すために、寄席のバイプレーヤーとしての役目をゆとりをもって果たしている。円蔵師の直木賞作家・半村良氏との親交ばなしは初耳で収穫。
小三治師「にらみ返し」は、20年近く以前の落語研究会でのビデオ(当方所有)のせりふを思い出しながら聞く。緻密な表情や台詞の間といった演出の細かいところまでが、あの時点でもう固定していた。つまり、すでにほぼ完璧に作り上げられていた!(いまさらながら関心)。お目当てがはっきりしすぎた会って、客席が一色に染まってえてして息苦しいことも多いものだけど、今日は前出のとおり多様な客層が交じり合い、いい意味の寄席らしい笑いで、こちらも集中しやすかったし、小三治師もやりよそうだった。


1月8日(水)「劇団にんげん座 下町B級観光案内」
[18:00 シアターX]
「劇団にんげん座 下町B級観光案内」
『東京かわら版』でも連載中の、劇作家・飯田一雄の主催による、軽演劇公演。浅草で一世を風靡した「軽演劇」を肌で知る人は、だいたい60代以上ではないか。もちろん僕は、映画やビデオで知るだけだ。そんな中で、そうした古きよき時代の空気をナマの舞台で再現し、後年に伝える試みなのだろう。プレビュー公演らしく、客席には関敬六(いまも木馬座などで活動中)、そして谷幹一(懐かし〜ぃ)、そして永六輔氏の顔も。浅草で育った老人の回想を軸に、劇中劇、コント、楽屋風景などが、切れ目なく繰り広げられる。さらに、ショパン猪狩の東京コミックショー、村井しげるさんのアコーディオン弾き語りなど演芸コーナー、東家三楽師(浪曲)とのコラボレーション(?)による大衆演劇風マゲ物コントなど、盛りだくさん。アラカルト形式でつづるスケッチ集といった風情で楽しめる。さすがに見どころある芸人が何人も出てきて引き締めているが、“泣かせ”の使い方がどうもひっかかってしまう。古きよき浅草への郷愁がたっぷりで、作者の思い入れと演者たちの情熱は理解できるとして、それを今「現在」の観客に見せるやり方としては、もっと何かあるのでは,ないか? って思うのだ。昔の空気を知る人にとっては満足なんだろうけど…。たとえば、浅草・木馬館でがんばってる橋達也さんら「お年寄り」ばっかりの、見方によっては単なる懐かしものに見えるお芝居(浅草21世紀)でも、もっとパッションというか、どこかぶち壊れたスゴ味がある。とちと残念。楽しい雰囲気に「ついていけない」のは、こちらの勉強不足がもちろんあるのだけれど。

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